河野多惠子「秘事」

ピーナッツ

河野多惠子「秘事」を読みました。



とても面白かったです!いやーすごく面白かった!


初めて読む作家さんなので、一体どんな人か?と調べたら、芥川賞受賞歴と記載されている他に、性に関して客観的に書いているとか、作品の中のベッドシーンが多いとか、批判されたことがあると出ていました。

この本のタイトル「秘事」と、いかにもエロティックな感じが漂ってくるので、これは構えて読まなければならないかなと思いました。

だけど私は小さい頃から横溝正史フリークだし、成人してからはBLやら結構過激なティーンズ系小説も頭が腐るほど読み込んできたので、多少のエログロでは動じない自信があります(←なんだそれ)

だからどんな感じかな?と少しドキドキしつつ読み始めたら、全然、色っぽい話じゃなかった!!それよりも、ほのぼのしてて、仲良い夫婦のことが淡々とつづられている感じでした。


ただたぶんこれは読者を選ぶな・・男性はあんまり楽しめないかも。

私はすっごく面白いと思いました。

韓国ドラマで「ハヌリシヨ」とか大ヒットしてるけど問題作を書くって言われている脚本家さんいるでしょ?あんな感じ。

「ハヌリシヨ」は、上品な反面、トンチキな部分も多いんだけど、この作品はその上品な部分(タメが多いところとか)だけを描いているって感じです(説明するのが難しい)


仲良い夫婦の出会いから別れまでをつづったものだけど、一般的な階級ではなく、少しハイクラスな感じがしました。戦後の混乱から少し抜け出た時代とはいえ、旦那さんは商社勤めで海外赴任もしているから、もしかしたら一般よりかなり選ばれた人たちかもしれないです。

そういうこともあって、他人との付き合い方が上品でスマート!

今の時代は、個人主義が多いから、もうこういう付き合い方をすることってほとんどないんだろうなと思います。私も個人主義で合理的なことを求めるから、こういった付き合いは面倒だなって思っちゃいます。

小説として読んでいる分には、他人への配慮が丁寧で美しいなと楽しめるんですけどね。


個人的に結構出版年が古い本が大好きなので、普通よりは読み込んでいる方だと思うから、古い言葉もある程度は認識しているつもりだったけれど、この本でわからないことが2つあった。

1つは、学生時代の女性同士の関係で「S」なものってやつ。S?なんだそれ?文章前後を読むと、レズビアン的な関係かなと思ったのですが、わからなくて調べたら「S」はsisterの略とのこと。なんだ・・単純だったのね(笑)女子高とかで、友情よりも少し上な関係ってことかしら。

もう1つは、「筵敷」って表現。年配の男性の後添えになる後妻さんのことらしいんだけど、そんな表現あるんだね。

この筵敷さんとの関係もスマートでしたな・・


しかしこの夫婦、旦那さんが奥さんのことを「気持ちのいい人」って表現してたけど、本当に出来た奥さんだった!言葉って本当に大事だよね・・と実感しました。

そしてこの奥さんが素晴らしかったのは、やはり旦那さんも素晴らしかったからだと思いました。

中盤で一度だけ、旦那があわやDVかというシーンがあったけれど、ここはとどまってよかった。

私の中では、DVと借金する奴はクソなだけでなく、1度でもそういうことをすると絶対にやめられないってわかっているから、きっぱり縁を切るに限ると思ってます。

だから旦那さんが暴力振るうシーンがあったら、この小説投げ飛ばしていたと思うので、回避できてよかった。


夫婦の仲良いシーンだけでなく、これから戦後の日本が発展していくんだろうなってわかる表現も多くて興味深く読みました。

新卒で入った会社の研修や運動会、海外赴任した時に遅れてやってきた奥さんが着物姿だったとか。あと親と子どもとの関係、親戚との関係も、適度な距離を持ちながら良好で、これは全然古さを感じなかった。名前の由来なども面白い。舞っていい名前だよね。

太郎君とか次郎くんとか、子どもに対する呼び方もいいんだよね。

年末に水漏れが起こったときに、兄弟2人の対処が素晴らしいんだけど、そのことを年末年始の忙しい時でなく、後でこういうことがあったと言えばいいんだ!配慮が足りないというお父さん。

いやー、こんな考え方・・私のようなド庶民は、そこまで考えが及びもしませんでした、素晴らしいです。


私も口癖で、すぐに可愛いとか凄いとか最高とか安易に言ったり書いたりするんだけど、本当に語彙が貧困で・・情けないです。

こういう本を読むと、人間関係とはどうあるべきか、日本語の美しさをもっと大事にしなければならないなって反省させられます。